鱗状黒鉛は、文字通り、鱗状の外観を有する黒鉛です。若干ややこしいのですが、鱗状黒鉛はさらに鱗片状黒鉛(flake graphite)と鱗状黒鉛(vein graphite)に分類されることもあります。鱗片状黒鉛は薄い薄片状の黒鉛で、鱗状黒鉛は薄片の厚みが比較的大きな塊状です。
天然黒鉛として最も多く産出されているのが鱗片状黒鉛です。中国、インド、ブラジルなどが主な産出国です。鱗片状黒鉛は鉱石中に薄く層状に集まっており、多くの場合は露天掘りで採掘されます。そのままでは品位が低いので、粉砕してから浮遊選鉱で脈石(鉱石中の不要な部分)を除去し純度を高めます。
鱗状黒鉛は塊状黒鉛とも呼ばれ、スリランカが産出国として有名です。鱗片黒鉛は岩盤中に厚く集まっており、多くの場合は坑道掘りで採掘されます。基本的に高品位で、採掘後、形状や粒度に従って分けられます。必要に応じて浮遊選鉱でさらに純度を高めることができます。
鱗状黒鉛は無機的に生成したものと考えられています。

鱗状黒鉛の性質と用途

鱗片状黒鉛は、最も結晶性が高い黒鉛です。黒鉛はグラフェンシートが層状に重なったものですが、このため、グラフェンシートの面内方向と面間方向とでは大きく性質が異なります。理論的には面内と面間では電気抵抗値で1万倍程度の差があります。方向に応じて物理的性質が異なることを異方性と言いますが、鱗片状黒鉛は異方性が高い材料です。
鱗片状黒鉛は、耐火物、ゴム・塗料への添加物、電気材料、固体潤滑剤、鉛筆などで使用されます。
鱗片状黒鉛はそのままでも使用されますが、その特性を活かして種々の加工を施して利用することもできます。これについては次項で説明します。
鱗状黒鉛は、カーボンブラシ、ゴム・塗料への添加物、電気材料、固体潤滑剤、耐火物、鉛筆などで使用されます。

鱗片状黒鉛の加工品と用途

鱗片状黒鉛の加工品としては、球状黒鉛、膨張黒鉛・膨張化黒鉛、表面改質黒鉛などがあります。

・球状黒鉛

これは薄片状の鱗片状黒鉛を粉砕して物理的または化学的に球状化したものです。球状黒鉛は、薄片状の鱗片状黒鉛よりも異方性が低くなります。また、粒子間の接点が多いため全体として電気伝導率が高くなります。摺動性もよいので、摺動材や導電材として利用されます。
なお、「球状黒鉛」は別の分野でも使われる用語です。黒鉛製品からは話が横道にそれますが、ちょっとお付き合いください。
まず、鉄と鋼、鋳鉄の違いをご存じでしょうか?実はこの違いは炭素の含有量にあるのです。炭素の含有量が0.02%未満の鉄が本来の鉄です。0.02%~2.14%が鋼です。2.14%を超えると鋳鉄になります。鋳鉄はかなり炭素分を含んでいるので固まるときに炭素分が黒鉛として析出します。一般にはこの黒鉛は片状に析出するのですが、ある種の元素を添加すると析出黒鉛が球状化するのです。これが球状黒鉛鋳鉄です。
鉄では炭素分が増すと硬くなりますが、片状黒鉛鋳鉄では応力が集中しやすいため脆弱になります。一方、球状黒鉛鋳鉄は応力が分散するので強靭性が増します。
黒鉛製品の球状黒鉛も球状黒鉛鋳鉄の球状黒鉛も球状の黒鉛ですが、全く別の物です。前者は市販されていますが後者はそれだけを取り出すことはありません。ただ、黒鉛がさまざまな分野で活躍しているのはなにか嬉しいですね。

・膨張黒鉛・膨張化黒鉛

さて、鱗片状黒鉛の加工品に戻ると、膨張黒鉛・膨張化黒鉛と呼ばれる製品もあります。
そもそも、鱗片状黒鉛はグラフェンシートが層状に重なったものですが、この層間にある種の物質(イオンや分子)を挿入できます。さらにこの層間物質を化学反応や熱によりガス化することにより層間を大きく広げることができます。これが膨張性黒鉛・膨張化黒鉛です。
膨張性黒鉛(expandable graphite)・膨張化黒鉛(expanded graphite)は、耐火材料の他、難燃性や断熱性に優れているため、粉末またはシート状に成形して、難燃剤、発泡フォーム、建材として用いたり、クッション・スペーサー用、ガスケット・パッキンなどのシール材、電子部品の放熱材として使用できます。また、樹脂やゴムなどに配合したりコーティングして、樹脂・ゴム製品として用いることができます。
具体的には、膨張性黒鉛は高温(800~1000℃)に加熱することで、もとの黒鉛結晶の数百倍に膨張します。このため、これをゴム・樹脂など可燃性材料に配合した場合、火災時に断熱層が形成され燃え広がるのが防止されるわけです。従来、難燃剤としては、ハロゲン化合物やアンチモン化合物がありましたが、こうした難燃剤は火災時に有毒ガスが発生するおそれがあります。これに対し、膨張性黒鉛は発泡によるガスが黒鉛内に閉じ込められているため、有毒ガス発生のおそれがありません。
膨張化黒鉛シートは、層間物質をガス化して膨張させた後、シート状にプレス成形等したものです。これは、耐水性・耐油性・耐酸性・耐アルカリ性・耐溶剤性・耐熱性であるため、水や蒸気、油、酸、アルカリ、熱媒体、溶剤、ガスなどのポンプやバルブなどのパッキングとして有用です。

・表面改質黒鉛

鱗片状黒鉛はグラフェンシートが層状に重なったものですが、この層間にリチウムイオンを出し入れすることもできます。この性質を利用してリチウムイオン二次電池の負極材料としても用いられています。鱗片状黒鉛は人造黒鉛と比べて安価です。ただ、電解液に対して濡れ性が劣ります。これらの点も含め表面を改質することでさまざまな特性を改善できます。
このように鱗状黒鉛はそれ自体だけでなく、さまざまな加工を施して幅広い分野で使用されています。