人造黒鉛の製造

天然黒鉛に対して人工的に製造した黒鉛が人造黒鉛です。
人造黒鉛は、単純に言えばコークスを黒鉛化したものですが、実際にはかなり複雑なプロセスで製造されます。

コークス

まず、原料となるコークス。コークスには石炭コークスと石油コークスがあります。
石炭コークスは、昔は蒸気機関車や暖房に使われていたものです(今でも使われています)。現在でも製鉄では普通に使用されます。石炭との違いは見た目がガサガサしている点。高純度の石炭はつやつやしていますが、コークスはガサガサした外観です。これは、石炭を1300℃以上で乾留(蒸し焼き)したものがコークスで、そのため、揮発成分やタール、硫黄分などが抜けて多孔質になっているからです。
石油コークスはその名の通り石油精製過程で得られるもので、石油コークスと言っても固形のものです。人造黒鉛の製造には石炭コークスも石油コークスも使われます。

混ねつ・成形

次に原料コークスをバインダーピッチと呼ばれるものと混合して加熱しながら練り合わせます。均一に混ざるようにするわけです。その後、粉砕して粉状にしてから成形します。
成形はさまざまなやり方があります。
単純には押し出し成形です。押し出し成形というのはイメージとしては「ところてん」です。例えば、円形の穴から押し出すと円柱状の成形体ができます。この場合、成形体には異方性が生じます。例えば、電流の流れやすさが円柱の軸方向と半径方向では変わってしまいます(それが良い場合も不都合な場合もあります)。
型にはめてプレスする方法もあります。この方法だと望む形の成形体が得られます。押し出し成形同様、プレスによって異方性が生じます。
もうひとつはCIP成形です。これは原料をゴム製の型に入れて水中で圧力を加える方法です。この場合、Pascalの法則に従って圧力が加わるため異方性のない(あるいは小さい)等方性の黒鉛が得られます。

一次焼成

混ねつ・成形により一定のかたちとなったものを焼成して形を固定します。焼成温度は1000℃くらいです。簡単に焼成と言っても一日二日ではなくかなりの長期間行います。

ピッチ含浸・二次焼成

焼成体には隙間があるのでここにピッチを染み込ませます。基本的には一次焼成体をピッチに漬け、圧力を掛けてピッチを浸透させるわけです。さらに二次焼成を行い、ピッチを炭素化します。さらにピッチ含浸と三次焼成を行う場合もあります。

黒鉛化

こうしてできた焼成体を高温で黒鉛化します。温度は3000℃程度です。これもかなりの長期間になります。
長期間3000℃程度の高温にするのにはいろいろな問題があります。加熱手段じたいが熱でダメージを受けるのです。そこで、焼成体に電気を流して加熱する方法が行われています。これをアチソン炉と言います。ちなみにアチソンは人造黒鉛の製造方法を初めて考えた米国人の名前です。

その他の処理

黒鉛化した後、切削して望むかたちに加工したり、高純度化処理を行う場合もあります。

人造黒鉛の用途

人造黒鉛は、品質を精密に調整可能なため、リチウムイオン電池の負極材や製鉄の黒鉛電極などに使われています。
リチウムイオン電池の負極材に人造黒鉛を利用した場合、放電末期まで安定して高い電圧を維持できるという利点があります。
製鉄の黒鉛電極とは、電気炉による製鉄で利用する電極のことです。
一般に製鉄と言うと溶鉱炉(高炉)を思い浮かべますが、鉄スクラップを溶かして鋼材にする電気炉も多く使われています。米国などでは溶鉱炉による鋼材よりも電気炉による鋼材の方が多いくらいです。
ただ、鉄の融点は1538°Cですから、電気炉ではこの高温に耐える電極が必要です。これが人造黒鉛電極です。
なお、人造黒鉛電極と言えども炭素なので、高温にさらしてしまうと燃えてしまうのではないかと思われるかもしれません。実際、電気炉における黒鉛電極の大きな問題として、酸化などによる消耗、電極の折損、電極の継ぎ足しがあります。
電気炉では基本的にアーク放電を行っているので電極先端の消耗は避けられませんが、先端に至る途中の部分も消耗して細くなってしまいます。ただでさえ、電極は熱的にも機械的にも大きな衝撃にさらされています。電極が細ると折れてしまうこともあり、これは電気炉操業の中断を引き起こし、大きな損失です。
そこで、人造黒鉛電極の表面に酸化防止層を形成するのです。例えば、電極表面にガラス層を設けて黒鉛の炭素と酸化雰囲気との接触を防ぎます。
また、電極の継ぎ足しにはニップルという構造が使われています。これは、柱状の電極の一方にソケット(雌ねじ部)を形成し、他方に雄ねじ部を形成したニップル(黒鉛継手)を形成しておき、ニップルをソケットにねじ込んで接続していくという方法です。これにより連続的に黒鉛電極をつないでいくことができるのです。ちなみにニップルのもともとの意味は乳首です。
人造黒鉛は、以上のほか、自動車のブレーキ材にも使われています。